気候危機と食品ロス
今年の7月22日は世界で最も暑い日となり、7月は昨年に続いて日本で観測史上最も暑い月を更新しました。スコールのような雨も多く、気候変動の影響を実感する夏です。夏休み中にはひとり親家庭の子どもの1/3以上が1日2食以下、4割以上がコメを買えない時があったというNPOの調査結果が公表されました。気候危機と子どもの貧困がクローズアップされる一方で、たくさんの食べ物が捨てられ、その処理で発生する温室効果ガスが地球温暖化にも大きく影響しています。
8月2日、都議会議事堂で気候危機・自治体議員の会のセミナーを開催。食品ロス問題ジャーナリストの井出留美さんに、食品ロス問題の現状や地球環境に与える影響についてお話しを伺いました。
●気候危機に加担する食品ロス
世界では、一年間に生産される食料のおよそ1/3にあたる13億トンが捨てられています。そして、消費されない食品のために、年間約36億トンの温室効果ガスが発生しています。世界の温室効果ガスの8~10%にあたり、自動車から出る量に匹敵するとも言われ、日本のすべての森林が15年間かけて吸収する二酸化炭素とほぼ同じ量です。さらに世界で廃棄されている食品に使われる水の量は年間250k㎥、琵琶湖の水の約9倍の量になります。食品ロスは地球環境にも深刻な影響を与えており、その削減は持続可能な社会と地球環境保護には欠かせない重要課題です。
また、世界中で食料問題が叫ばれる中、食料自給率が38%(カロリーベース)と危機的な状況にありながら、日本では1年間に523万トン、東京ドームのおよそ4.2個分もの食品ロスが発生しています。日本に住んでいる人が全員、毎日おにぎり1個分を捨てている計算になり、そのうち半数近くが家庭から発生しています。東京都では年間35.6万トンの食品ロスのうち、外食産業からの割合が多く、家庭からは約4割です。
東京都は「食品ロス削減推進計画」を策定し、2023年に食品ロスを半減、2050年に実質ゼロを目指しています。2021年に策定した計画ですが、20年以上もさかのぼって2000年を基準値とする計画のため、2023年で既に52%削減を達成しています。待ったなしの気候危機対策にも大きくかかわる食品ロス削減は、高い削減目標を掲げて実効性のある取り組みを推進すべきです。
●生ごみをたい肥にして資源循環を
世界中の焼却炉の半分以上が集中する「焼却大国」日本では、未だに多くの自治体で生ごみの焼却処理をしています。燃やせるごみの4割は水分の多い生ごみなので燃やしにくく、温室効果ガスの排出でも大きな負荷をかけています。
生活者ネットワークは、かねてからごみの発生抑制と、生ごみを資源循環させる取り組みを地域で進めてきました。国分寺市では生ごみたい肥化事業が実施され、分別した生ごみは無料で収集されています。韓国やカリフォルニア州、ニューヨーク市など、世界では生ごみの廃棄が禁止され、生ごみリサイクルの法制化が進む中、日本も国をあげての取り組みが必要です。
●商品管理と表示の問題
今年は気候変動の影響もあり、コメ不足が深刻です。都内のスーパーでもコメの陳列棚が空っぽになって新米の時期までは輸入米に頼らざるをえない状況にも関わらず、精米して1ヶ月経つと商品棚から撤去されます。また、賞味期限を1/3ずつ区切り、最初の1/3を納品期限、次の1/3を販売期限とするルール、陳列棚が空になると納入者に「欠品ペナルティ」が科されるなど食品業界独自の「商習慣」があり、小売り店からの食品廃棄につながっています。期限を1/2に緩和し、小売店が販売期限をなくして返品や廃棄しないで売り切る工夫をするなどの取り組みが始まっています。
また、表示には過ぎたら食べないほうが良い期限とされる「消費期限」と、おいしく食べられる期間を示す「賞味期限」があります。「賞味期限」は期限を過ぎてもまだ食べられるので、日付の数字だけで判断せずに、味やにおいを自分で確認して食べ切ることが大切です。
表示方法については、デンマークでは「多くの場合、その後もおいしく食べられます」と表記し、自分の目と鼻と舌で確認して食べることを推奨した結果、5年間で25%も食品ロスを減らしたそうです。日本でも「賞味期限(おいしさのめやす)」など、表記の工夫が始まっています。分かりやすい表示や、容器包装に※カーボンフットプリントを表示してCO2を見える化する、「はかり売り」のように容器包装を使わない販売などを消費者が積極的に選択し、消費行動で変えていくことが大きな力になります。
食べ物や水を無駄にしない暮らしは、命や環境を大切にする社会につながります。私たち一人ひとりの意識と行動を変えて、食品ロス削減をすすめていきましょう。
※カーボンフットプリント:商品やサービスが温室効果ガスをどれだけ生み出しているかを示す指標。