滋賀県の流域治水とグリーンインフラの推進~関西視察報告③~

琵琶湖があり、日本国内で天井川が一番多い滋賀県の流域治水とグリーンインフラの取り組みを伺いました。

水害の多い滋賀県では、かつては小さな洪水を少しずつ体験しながら、嵩上げをするなど災いをやり過ごす工夫をして備えてきました。そして、その知恵が災害文化として継承されることで、災害に見舞われても地域が継続できる力となってきました。しかし現在は人工的に作られた安全が高まり、水害の頻度が減少したことで災害文化が途絶えてしまい、安全神話や行政依存が強まるなど人間側の弱さが高まる問題も生じているそうです。

 

滋賀の流域治水と条例制定までのあゆみ
滋賀の流域対策は、どのような洪水にあっても人命が失われることを避けること、床上浸水などの生活再建が困難となる被害を避けることを目的に行われています。具体的には、川の中で水を安全に「ながす」対策に加えて、川の外での対策として、雨水を「ためる」、被害を最小限に「どどめる」、水害に「そなえる」対策を組み合わせて行われています。

条例制定にむけては、2006年9月に流域治水政策室が設置され、庁内組織が立ち上がりました。翌年から行政、住民、学識者ごとに検討委員会が開催され、2012年に「滋賀県流域治水基本方針」が県議会で議決され策定されました。その後、2014年3月に 滋賀県流域治水の推進に関する条例 を制定。流域治水政策室の設置からおよそ8年間の年月をかけて市民参加ですすめられたそうです。

条例では、①農地や森林、公園、運動場などの管理者が雨水を貯めたり浸透させることを努力義務化したり、②浸水頻度が高い場所での土地利用を規制して浸水が予想される区域は新たに市街化区域には含めないこと、③市街化区域にする場合には盛り土によるリスクを軽減を行ってから、と規定。④特に水害リスクの高い場所では、住宅の1階が水没しても避難できるように建築物の建築制限を行うなど、安全な住まい方のルールづくりを行っています。

浸水警戒区域の中で重点地区を決めて災害危険区域では5軒以上集まると国の補助を受けて集団移転をすすめる、浸水対策として宅地の嵩上げ用の盛り土を半額補助するなど、ゆるやかな誘導により水害に強い地域づくりを行っています。また、水害に「そなえる」対策としては、まち全体に誰もが見えるようなハザードマップの設置や自治会や学校への出前講座や訓練も行われています。

 

滋賀県のグリーンインフラとは
滋賀県では、独自の風土や自然環境が持つ自律的回復力をはじめとする多様な機能を積極的に活用して、環境と共生した社会資本整備や土地利用を進める「一石多鳥」の取り組みを、グリーンインフラと定義してすすめています。

例えば、河川流域や廃川敷の緑の整備、びわ湖畔を一周するサイクリングロードを、「新しい見方、言い方」でグリーンインフラに位置付けるなど、①防災・減災害、②地域振興、③環境保全の3つの取り組みに分類してまちづくりをすすめています。

グリーンインフラ庁内連絡会を設置し、川の跡地を地域振興、防災減災の視点を持って多世代が集える公園に整備した事例や、ビワマスが遡上して産卵、繁殖できる環境を整える活動などの取り組みを 滋賀県が取り組むグリーンインフラ事例集 としてまとめています。

川があることを一番に考え、雨が降ることを前提とした家の建て方も含めたまちづくりなど、東京都の浸水・治水対策への提案に活かしていきます。